TEO Side Story TEO Side Story
last updated 1997/06/28

第44話(全130話)

フィンク(2/2)




 どうして? だってフィンクっていうのは愛情とか親しみとか笑顔とかを必要としてるんだ
ろ? だったら、ぼくなんかそういうのにいちばん遠い状況にあるじゃないか。
〈愛情とか親しみとか、このテオでいちばん必要としてるのがピート、きみだと思うな。そう
いう子のそばにいるのは、ぼくにとっても好都合なんだよ。愛情を心から求めてる子供って、
それだけの分量の愛情をいつだって周囲に発散してるものなんだもの〉
 フィンクは言い、そしてもう一度片目をつぶってみせる。
〈ぼくの名前はフィンフィン。よろしくね、ピート〉
 よろしく。
 とても人なつっこくて、無邪気で、そして愛らしい目をしたフィンフィンに、ロボットはペ
コリと頭を下げた。
「何してるの?」
 怪訝そうな顔でマリカはフィンクにお辞儀をしているマスターをみつめていた。
「まさかマスター、あなたフィンクと話してたわけじゃないよね。フィンクは心に語りかけて
くる生き物だし、マスターに心なんかあるわけないんだし」
「へえ、フィンクって心と心で話をするんだ」
 ピートはとぼけてみせた。
 マリカはデータ・ゼロ状態のマスターに「そうよ」とうなずいてみせる。
「フィンクがそばに寄ってきてくれるのは、とてもいいことなの。幸運の御守りみたいなもの
よ」言って、マリカは心でフィンフィンに続ける。
 一緒に行かない? あなたに家族とかいないんだったら、あたしと一緒に旅をしない?
〈もちろん! マリカ姫と一緒に行くよ! 決まってるじゃないか。フィンクはね、面白そう
なことが大好きなんだよ!〉
 フィンフィンはマリカへと応え、今度はピートだけに伝わる心の回線を使って続ける。
〈ピート。きみがピートだってことは、どうしてマリカ姫に教えてあげないの?〉
 いまそんなこと言ったって、マリカは決して信じてくれないよ。きみは心を直接読んでくれ
るから、ややこしい説明はしなくてもすんだけど、ぼくはまだ自分で自分に何が起こったのか
もわからないのに、マリカにきちんと説明できないよ。きちんと説明しなかったら理解しても
らえないし、そうなったらマリカ姫に、マスターを返しなさい! あたしの機械なのに、勝手
にいじり回さないでッ、て怒られちゃうかもしれないし、悪くしたら、気味が悪いからそばに
寄ってこないで、とかって追い払われちゃうかも知れないだろ? そうなったら困るんだ。マ
リカに説明しろと言われても、ぼく何をどう説明していいかわかんない。だからいまのマスタ
ーのふりをしてるのがいちばんだと思うんだ。こうやってマリカと旅を続けていれば、きっと
ぼくに何が起こったのかを解き明かすきっかけが得られると思うし、いまはそのチャンスを逃
がしたくないんだよ。
 精一杯、フィンフィンへと語りかけるピートに、フィンフィンは苦笑した。
〈本当だ。言葉にして気持ちを説明するのが、ピートってすごく下手だね。たくさん喋ってる
けど、何言ってんだか、ぼくよくわかんないや〉
 フィンフィンはそしてフワリと宙に浮くと、マスターのほうへスイッと近づいてくる。
〈心で直接読み取れば、すぐに理解できることなのにね。言葉って面倒でややこしいね〉
 うん。だから自分でうまく説明できる言葉をみつけるまで、マリカにはぼくはマスターだっ
てことにしておいてよ。
〈いいよ。ぼく秘密って大好きさ!〉
 フィンフィンは内緒話が大好きな五才の子供のように目を輝かせた。心を読んだり、受け取
ったりすることが日常のフィンクには、秘密、というものがない。だからこそ余計に、フィン
フィンは「秘密」という単語に素敵な魔法の響きを感じているようだった。
「ちゃんと泳げるわね。じゃあ出発しましょうか。日が暮れるまでに野宿できる場所みつけな
いといけないから」
 マリカは言って、すでにそばに寄り添っていたワーターの背にひらりと飛び乗る。
「それに、ここにいたら、いつドラテロが戻ってくるかわからないもの」
 ピートはフィンフィンに顔を向けた。
 そう言えば、フィンフィン。きみ、ドラテロ親子はもうここには戻ってこないって言ってな
かった?
〈言ったよ。ドラテロはね、一度荒らされたテリトリーには二度と近づかないんだ。怖そうな
顔してるけど、彼らはとても用心深いんだよ〉
〈たいへんだな〉                                  
〈え?〉
〈赤ちゃんが生まれたばかりなのに、新しい巣をみつけなきゃならないなんて、あのお母さん
 もたいへんだよね〉
〈そんなふうに思う子だから、ぼくはピートが大好きさ〉
 フィンフィンは唄うように言った。
 いろいろと思い悩んだり、困り果てたり、途方に暮れたりしてるけど、ピートって子が世界
をみつめる目は基本的にとてもやさしい。
 そのやさしさがフィンフィンの心にエネルギーをやわらかく注いでくれるのだった。
 愛される姫という身分を捨てた少女と、とても不安だから、暖かな愛情に触れていたいと切
実に思っている機械の体を持つ少年と、愛情を注がれなければ病気になってしまうフィンクは
、どこへと目標を定めないまま、泉のそばを離れて行く。
「とにかく真っ直ぐ南へ!」
 どこへ向かうの、とテレパシーで尋ねたフィンフィンに応えたのだろう、マリカは大声でそ
う宣言した。

(つづく)




Back Number


back

presented by son@ch-teo.com

Copyright(C)1997 FUJITSU LIMITED.
All Right Reserved.